2003/12-b




2003/12/31  せかいの淵で


あと7時間あまりで2003年も終わろうとしている
だけどそれよりも驚くべきことは、
8日もあった連休も、もう5日目なのだということだ
だけど一応、今日が今年の最後の日なので、
母と大晦日の買い物に行く以外にはとくに予定もなかったけれど、
お気に入りの洋服―ハイヒールのカットソーにzuccaのスリムパンツ―を着て、お化粧もした


長い長い仕事の毎日と、早送りのおやすみを繰り返し、
今年もまた終わりの日がやってきた
終わり、という表現は適切ではなくて、
人間がひいた境界線でしかないのだけれど


今日の日にわざわざ取り沙汰すほどの大きなできごとはなかったけれど
それなりに楽しいこともあったし、辛いこともあった
その日々は無駄ではなかったと信じたい


明日からまた、わたしはわたしの毎日を生きてゆく






今年1年、わたしを支えてくださったたくさんのひとたちにめいっぱいのありがとうを。






2003/12/30  泥棒


年の瀬だということを微塵も感じないのは、
年末のテレビを見ていないせいかもしれない
家のなかでしていることは、借りてきたDVDを観たり、雑誌をぱらぱらとながめていることくらいだ
天気がよかったので―というのは理由のひとつにすぎず、ほんとうは昨日近年まれにみる寝坊をしてしまったことがいちばんの原因なのだが―年末の忙しい空気に触れようと街へ出かけてみた
だけど思いのほか街は人もまばらで、唯一、デパートの食料品売り場だけがおばさまたちでごったがえしていた


もうじきセールがはじまるお店たちには目もくれず、
ツモリにだけ寄りいつものようにスタッフさんとおはなしをして
紀伊国屋で装苑を買い、スタバでトフィーナッツ・ラテを飲んだ
それから三越で、スヌーピーのキルト展を観た


街じゅうからクリスマスのかざりがそっくりなくなっているのに気がついて
今年はけやき通りのイルミネーションをまだ見ていないことを思い出す
けやき通りは車で通るといちばんきれいに見えるんだよ、と
わたしを助手席に乗せてひかりのアーチのしたへ連れていってくれたのは、何年前の冬だったっけ






2003/12/28  砂の器


たいせつなものはいつも、
手にした瞬間にわたしの指のあいだをするりと抜けて消え去ってしまう
かわいた砂を、ちいさな掌で掬い上げたときのように


とろりと酔った、だけどしゃんと研ぎ澄まされたまなざしで24cmうえのあの子を見た
―あの子はおそらく、気づいていなかっただろうけれど


ほかの男の子たちの、帰っちゃうの?という声に、
おつかれ、と笑顔を向け、踵を返した
あの子が引き止めてくれないことは、容易に想像できた


すごく泣きたかった
涙が出てこないことなんて最初から知っていた
だからわたしは目を瞑って、瞳の奥でわんわんと泣いた
今日は、職場の忘年会だった


花園に初出場した母校のラグビー部は、初戦を突破した


いやな夢を見た






2003/12/27  ドアノブ


年末の大掃除をした
なつかしいものを見つけては手を止め、それに見入ってしまうのでなかなか進まなかった
もうつかうことはないとわかっていても、その思い出に結びつくきっかけとなるものたちを捨ててしまうのには、ものすごく勇気が要る
だけどわたしはもう過去には執着しないと決めていたので、心を鬼にしてたくさんの思い出たちをごみ袋に詰め込んだ
なくなってしまえばきっと、どうってこともないのだ
ふだんのほとんどは、それらを忘れたまますごしているのだから
思い出すきっかけをなくしたとしても、過去は事実として存在しつづけるのだから


雪空をこえて、幸運がわたしのもとへと飛んできた
来月、わたしは王子さまに会いに東京へ行く






2003/12/26  かなしいひかり


静寂が、空から舞い降りた


雪降る夜はとてもしずかだ
まるで、その白さのなかにたったひとり取り残されたかのように
凍えるようなつめたさで、だけどふんわりとしたやわらかさで、あらゆる音が遮断されるのだ
わたしはその静けさを、結構気に入っている
きっと明日の朝目が覚めたら、窓の外は純白の綿雪を纏っているのだろう


仕事は今日で最後だった
(施設の御用納めは日曜日なのだけど、わたしは代休なのだ)
もうすぐ、今年が終わる
今年という時に、追いつくことができないままに







2003/12/24  クリスマス・イヴ


クリスマス・イヴの夜はいつもとなんら変わらない夜だった
仕事から帰って、洋服を着替え、化粧を直し、ピアスをつけかえて出かけた
いつも行くお店でいつものようにおいしいおつまみを食べ、お酒を飲んだ
すべてが、いつも通り


1週間前に話したことについては、お互いすこしも触れなかった
またもとに戻ってしまうんだろうか
なんてことのない日常に、淘汰されてしまうんだろうか


わたしには、しあわせになる権利がないのかな


ねえ、おしえてよ





2003/12/23  おくりもの


イヴを明日に控え、街はクリスマスの買い物をする大勢の人でごったがえしていた
ひさしぶりに青空が見えて、川面が波打つたびにきらきらと光を放つ
犬ブルゾンのしたは薄着だったにもかかわらず、人の多さに暑いと感じるほどだった
日本国民は、西洋のイベントの前日が誕生日である天皇に感謝しなきゃだなあ、なんて思ってみたりもした
伊勢丹で母へ、BPで恋人へのささやかなおくりものを買い、ひとつ、大きなため息をつく
鬱々とした気持ちは、ジンジャーブレッド・ラテといっしょに飲みこんでしまった


母は突然のプレゼント―じなやかなカシミア地で、ふわふわのファーがついた黒い手袋だ―をとても喜んでくれた
母のよろこぶ顔をみて、わたしは一大決心をし、湯船につかりながら作戦を練った


そのはなしは、またいつか時がきたら。






2003/12/22  サーモグラフィー


体育部クリスマスパーティは、総勢8人が集まり大いに盛りあがった
寄せ鍋、魚介のマリネ、豚の角煮、スペアリブ、沢ガニ、とりはしの焼鳥、ロレーヌのケーキ、すべてが完璧においしかった
(夜勤明けのくせに調子に乗ってジンを飲みすぎ、早々に眠ってしまったことが唯一の反省点だが、これで酒豪だとかざるだとかいう誤解はとけたのではないかと勝手に思っている)
職場に、年齢も性別もごちゃまぜなのにまったく気をつかわず、1秒たりとも笑いの絶えることがない時間を過ごすことのできる仲間がいるというのは喜ぶべきことだ
仕事でいちばん大切なのは、その内容でもお給料でもなく、人間関係だと思う
めんどうな上司が多い職場で、この人たちの存在はわたしにとってとても貴重なのだ
あと3ヶ月したら、だれかしら転勤になってしまうだろうことには、今のところは目を瞑っていよう





2003/12/21  雪が解けるまで


昨日は雪が降った
最初の雪らしく、水分が多く細かい雪が轟音とともに飛び交っていた夜が明け、
白く覆われた地面に光がさしこむと、それはそれは眩しくて、
ちゃんと目を明けることができないもどかしさに顔をしかめた
ヴィツ子に積もった雪を急いで落とし、職場へと向かった


恋人からメールがきた
クリスマスのお誘いだ
だけどわたしの心は依然として晴れないままで
今日の空を覆っている、どんよりと重いねずみ色の雲とおんなじだ
もうすぐ、雪に閉ざされる






2003/12/19  m e l t


今月で捨てなくてはならない、ありあまっている有休をつかって歯医者へ行った
3ヶ月に1度の調整のためだ
大学の附属病院にかよいはじめてもう5年になる
がたがたで八重歯もあったわたしの歯は、おどろくほどきれいな歯並びになった


BPで月曜日のクリスマスパーティに持っていくプレゼント―予算500円でプレゼント交換をするのだ―を買ってから、ユナイテッドでラストサムライを観た
観客がこの作品を絶賛しているのをCMで目にしたけれど、わたしは、武士道がどんなにすばらしかろうとも人が殺しあってばかりいる映画はやっぱり苦手だ、と思った


映画のあとはamingでアクセサリーや雑貨を物色しながら友達からの電話を待った
7時半ころ連絡があり、友達のアパートへと向かった
3ヶ月ぶりに会う友達と、サティのちかくの居酒屋でお酒を飲んだ


だけどわたしのからだのなかにあるガラスでできた空洞は消えない
どうせなら、叩き割ってしまえばいいのに
そうじゃなければ、あつくてつよいてのひらで、溶かしてほしい
だれか、に






2003/12/18  おくすり


あの子の顔を見た瞬間、思わず安堵してしまった
昨晩の電話は、驚くほどわたしの頭を占拠することはなかったけれど


あの子といると、つらいことや苦しいこともぜんぶ、くだらないことのように思えてくる
すべて、簡単に笑いとばせてしまえるような気がしてくる


だけどわたしはあの子のことを、なにひとつ知らない
きっとこのバランスが、最善なのだろうと思っている






2003/12/17  最後通告


地元にあるチャイニーズ・ダイニングでの忘年会のあと、お風呂に入り、ベッドのうえで姿勢を正し、携帯の通話ボタンを押した
イヴまで、あと1週間
今日をXデイにすることは、前から決めていた
なのに恋人の携帯は電波外で、はりつめた気持ちはぷちんと切れてしまった


今日はもういいや、と思って布団をかぶり、眠りにつこうとしたとき、恋人からの電話があった
(実験室にいたために電話がつながらなかったそうだ)
わたしは気をとりなおして、言おうと思っていたことをすべて言った
これが最後通告だから、とも


恋人はただひたすらわたしに謝った
わたしが恋人に対して感じていたことを、恋人もうすうすわかっていた、と言った
だけど、なにひとつ解決はしなかったように思う
変わろうとする気持ちがなければ、結局なにも変わらないんだと痛感した


あとになればなるほど、いろんな思いがこみあげてくる
わたしは、かたちあるものを望んでいるわけではない
ただ、しあわせになりたい、それだけ
いつかではなく、今しあわせになりたいのだ
待つとか耐えるとか、そういうのはもう、まっぴらなのだ






2003/12/16  惨殺


TVのニュースで淡々と語られる残虐な事件を、夜勤明けのぼうっとしたあたまの5cmうえを通りすぎていく
物騒な世の中になったものだ、と、ひとごとのように考えてみる
(いや実際、痛ましくてかなしいとも思うけれど)
わたしには実際ひとを殺す気なんてさらさらないけれど、
心のなかでだれかを殺めるのは珍しいことではない


それは車道のまんなかをにけつのチャリで走る世間知らずの高校生だったり
場所をわきまえずに五月蝿く走りまわる子供やそれを見て微笑ましいとばかりにわらうばかな親だったり
自分のこともままならないくせにわがまま放題な利用者だったり
高い給料をもらっているくせにさっぱり使えない上司だったり


表にでるかでないかというのは紙一重だと思う
心のなかで彼らを惨殺しても、行動にうつすことはもちろん口外することもない
わたしは人のことをとやかく言えるほど立派な人間ではないし、
わたしのじゃまをする人たちに報復することは―たとえ心のなかだけだとしても―きわめて自己中心的なことだと解っているからだ


わたしはけして純粋でもまっすぐでもない
だけど、完全に純粋でまっすぐな人間など、この世に存在するのだろうか